「下町洋食キッチン」。
「トキワ」の屋号の前には、こんな主張がさりげなく記されている。
親しみを感じる文字につられて、白のれんをくぐれば、「いらっしゃい」と、厨房からも女店員からも快活な声がかけられて、心が弾む。
店の人と世間話を交わしながら、楽しそうに食事をする常連客。
三和土にパイプ椅子が置かれた、簡素な作りの小体な店内。
壁に所狭しと張り出された、品書きの短冊。
まさに、「気取りなくおいしい料理が食べられるぞ」という雰囲気に満ちた店である。
そんなこの店の人気が、「クリコロハヤシライス」だ。
ようするにクリームコロッケが二個のったハヤシライスなのだが、この両者の相性が馬鹿にできない。
品書きに、「うで卵入りペシャメルソース」と書かれたクリームコロッケは、粗めのパン粉でカラリと揚げられ、狐色の衣にサクッとナイフを立てれば、中からポッテリとした白いソースが現れる。
ほのかに甘い、ペシャメル・ソース自体の味だけで食べさせる、シンプルなコロッケである。
一方のハヤシは、炒めたざく切りの玉葱が入り、照りのある焦げ茶色をした、やや甘みの強いソース。コクが深く、ほのかな酸味が味を引き締めている。
それぞれを一緒にして口に運べば、控えめなうまみのコロッケと、濃厚なハヤシライスがなじみ合い、味に丸みが出る。コロッケをつぶして、ソースに混ぜ合わせて食べると、味がふくよかになる。
かなり量は多いが、両者の出会いを楽しむうちに、難なく食べ終えてしまうはずだ。
ただボリュームアップのためだけにコロッケをのせたのではない、痛快な料理である。